不倫の慰謝料請求について
ポイント!
・不倫相手に対する慰謝料請求は,①不倫自体を理由にするものと,②離婚を理由にするものの2つがある。
・このうち,②について,原則として認められないとする最高裁の初の判断が示された。
・①については,原則として認められるとする最高裁の判例が存在する。
第1 事例
甲さんと丙さんは勤務先の会社で知り合い不倫関係となりました。ところが楽しい時間は長くは続かず,甲さんの妻乙さんの知るところとなりました。ばれてしまったからには仕方がないと思ったかどうかは分かりませんが,そのころ,不倫関係を解消しました。
その後,甲さんと乙さんは,調停で離婚が成立しました。
ところが,腹の虫が治まらない乙さんは,離婚成立後,丙さんに対して,丙さんのせいで離婚することになったとして,離婚慰謝料を請求する裁判を提起しました。
この乙さんの請求は認められるでしょうか?
第2 前提事項
不倫相手に対する慰謝料請求をする場合,①不倫行為自体に関する慰謝料請求と②離婚に伴う慰謝料(不倫によって離婚に至らせたことを原因とする慰謝料請求)の2つの構成が考えられます。
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どう違うのか?
一般的に不法行為の消滅時効(いつまで請求できるか?)は,損害及び加害者を知ってから3年とされています。この3年の起算点が違うことになります。
①不倫行為自体に関する慰謝料請求については,個々の不倫行為自体を基準にすることになります。これに対して,②離婚慰謝料については,離婚自体を基準に判断することになります。
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今回の裁判では,このうち②について問題となりました。
①については,認める過去の最高裁判所の判例があります。この点,今後,①についても見解を改めるのかが注目されます。
第3 東京高等裁判所の判断
上記と同様の事案において,東京高等裁判所は,乙さんの慰謝料請求の一部を認めました。
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これは,これまでの下級審の裁判所(最高裁判所以外の裁判所)の運用通りの判断です。
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つまり,これまで,裁判所は,不倫された夫婦の一方は,不倫相手に対して離婚慰謝料を請求できると判断していたのです。
第4 最高裁判所の判断
東京高等裁判所の判決に不服があるとして,負けた丙さんは上告しました。
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平成31年2月19日に最高裁の判決が言い渡されました。
内容は,次のとおりです。
「夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対して,特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料を請求することはできない。」
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つまり,これまでの裁判所とは逆の判断を示したことになります。
これにより,乙さんの慰謝料請求は認められないことになりました。
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裁判所が付した理由は次のとおりです。
「夫婦が離婚するに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが,協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても,離婚による婚姻の解消は,本来,当該夫婦の間で決められるべき事柄である。」
第5 雑感
皆様のご意見・ご感想はいかがでしょうか?
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「不倫は文化」発言で批判された芸能人の方もいらっしゃいました(どうやら本人の発言は違ったニュアンスのものだったようです
が。)。
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こんなことを認めたら大手を振って不倫ができるようになりけしからんという声も聞こえてきそうです。
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この問題は,実は学者の間でも随分議論されてきました。学者の間ではどちらかというと今回の最高裁の判断のように慰謝料請求は認めない見解の方が多かったと思います。
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要約して説明します。
不貞相手に対する慰謝料請求が認められるか否かは,第三者による権利侵害の場合に不法行為による損害賠償請求が認められるかという問題であると整理されてきました。
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第三者による権利侵害の場合に,対象となる権利が債権のときには,害意という侵害に対する強い意思が必要とされています。
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不貞行為によって夫婦間のいかなる権利が侵害されるかという問題がありますが,一般的には円満な夫婦生活とされています。円満な夫婦生活は,夫婦が互いに相手方に協力を求めて実現するものですから,どちらかというと債権的なものであろうと思います。
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今回の最高裁の判断は,②離婚慰謝料について,この学会における通説的な立場に従ったと見ることもできます。
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法律における理屈と人情。バランスをどう取るかは難しい問題です。